多くの場合、アルバイトは時給や日給によって給与が決められています。そのため、正社員に比べてアルバイトの勤務時間を短く想定したり、勤務条件や職責などを緩やかに設定したりしている企業が多いのではないでしょうか。しかし、労働者としての権利は正社員もアルバイトも変わりません。さらに、アルバイトやパートは、勤務条件だけでなく、それぞれの生活背景や働いている目的も大きく異なることが多いため、正社員よりもきめ細やかな対応が必要とされるでしょう。ここでは、アルバイトやパートを雇用する際の注意点や、お金の壁、社会保険や労務などについてご説明します。
都道府県によって「最低賃金」が定められている
アルバイトを採用するにあたり、アルバイトの時給や日給をいくらに設定するかは企業にとって悩みどころだと思います。そこで参考になるのが「最低賃金」と呼ばれる、労働者に最低限支払うべき賃金です。最低賃金には、各都道府県によって設定される「地域別最低賃金」と、特定の地域と産業に対して設定される「特定最低賃金」の2種類があります。「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の両方が対象になる事業所の場合には、最低賃金の高い方が適用されます。地域別最低賃金は、毎年10月頃に改定されているため、事業所の設定している時給が最低賃金以下になっていないか確認するようにしましょう。
アルバイトの有給休暇・社会保険・産休・育休には細やかな配慮が必要
アルバイトであっても勤務時間や出勤日数などの要件を満たしている場合には、有給休暇や産休、育休を付与しなければならないことや、社会保険への加入が必須になることが、労働基準法によって定められています。ここでは、アルバイトを雇用する場合の有給休暇や社会保険に関する要件や仕組みを説明しましょう。
1.有給休暇
有給休暇は、一定の期間継続勤務した労働者に与えることが義務付けられている休暇です。雇い入れの日から6ヶ月が経過しており、算定期間の8割以上を出勤していれば、有給休暇を付与することができます。有給休暇の日数は「比例付与」と呼ばれる、所定労働時間や所定労働日数に応じて算出し、該当日数を有給休暇としてアルバイトに付与します。 例えば、1週間の所定労働日数が3日、年間の所定労働日数が121~168日の場合には、6ヶ月間の勤続で年間5日間、1年6ヶ月の勤続で年間6日間の有給休暇が付与されます。年間の有給休暇の日数は、勤続期間が長くなるほど、増えていく仕組みです。
週の所定 労働時間 |
週の所定 労働日数 |
年間の所定 労働日数 |
勤続年数 | ||||||
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6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月 | |||
30時間以上 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 | ||
30時間未満 | 5日以上 | 217日以上 | |||||||
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 | |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | |
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
そして、2019年4月から労働基準法が改正され、有給休暇の消化が義務化されます。全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇を付与した基準日から1年以内に5日については、使用者が時季を指定して取得させることが必要となります。ただし、年次有給休暇を5日以上取得済みの労働者に対しては、使用者による時季指定は不要です。
参考サイト
2.健康保険・厚生年金
アルバイトであっても社会保険の適用事業所で勤務した場合、「1日または1週間の所定労働時間」と「1ヶ月の所定労働日数」が、正社員の4分の3以上であれば、社会保険に強制加入となります。また、年収が130万円を超えた場合も、社会保険に加入する義務が発生します。年収130万円は、残業代や通勤手当も含めた基準です。そのため、給与が同じでも通勤距離によって社会保険への加入義務のあるアルバイトと、加入義務のないアルバイトがいる場合があります。また前述の通り、平成28年10月からは年収が130万円以下であっても、106万円の壁を越えて要件を満たした場合、社会保険に加入しなければならないため、注意が必要です。
3.雇用保険
雇用保険に加入する要件は、「31日以上雇用されることが見込まれ、1週間の労働時間が、20時間以上であること」です。仮に1日7時間の勤務であれば、週3日の勤務で1週間の勤務時間が20時間を超えます。以前は、学生や満65歳を超えて雇用された者は雇用保険の対象外でした。しかし、平成29年1月1日から65歳以上で新たに雇用された場合でも、一定の要件を満たせば雇用保険に加入できるようになっています。
4.労災保険
労災保険は、労働者が業務災害や通勤災害に遭った場合に、その労災について補償する制度です。労災保険は雇用形態にかかわらず、すべての労働者が加入の対象となり、日雇い勤務であっても労働保険に加入する必要があります。労災保険に加入していないと、労災事故が起こった場合、企業に労働者に対する補償の義務が生じてしまうため、労働者を雇った場合には、忘れずに労災保険の加入手続きを行いましょう。
5.産休・育休
産休とは産前産後休業のことで、働く女性の権利として労働基準法でその取得が定められています。出産前の 6 週間と、出産後の 8 週間が産休の期間です。産休期間中の給与の支払い義務はありませんが、本人が会社の健康保険に加入している場合、健康保険から出産手当金などの給付を受けることができます。 また、育児休暇については、以下の 2 つの要件を満たすことで取得することが可能になります。育児休業中の給与についても、産休と同様に企業側に支払いの義務はありません。
- 1年以上、継続して雇用している場合
- 子供が 1歳を超えても、継続して雇用することが見込まれる場合
18歳未満のアルバイト・パート
ファミリーレストランやコンビニエンスストアなどのサービス業では、18歳未満の方をアルバイトとして雇うこともあるでしょう。18歳未満を雇う場合にも、労働基準法を遵守して雇用しなければならず、厳しいガイドラインが厚生労働省によって定められています。ガイドラインには、例えば次のような条件が挙げられます。
- 1週間の労働時間は40時間であり、1日の労働時間は8時間を超えてはならないこと
- 深夜時間帯にあたる、午後10時~翌日午前5時までは、原則として勤務できないこと
- 危険または有害な業務については、就業を禁止または制限すること
18歳以上であれば、高校生であっても深夜時間帯にアルバイトが可能です。しかし、高校の校則で禁止されている場合もあるため、高校生を雇う際には校則を確認する必要があります。
改正パートタイム労働法のチェックは必要!
正社員との差別的な取り扱いなどを禁じた法律として、「パートタイム労働法」という法律があります。アルバイト・パートを雇う際の注意点は、ほぼパートタイム労働法に網羅されているので、アルバイトを雇用する際にはチェックしておきましょう。 またパートタイム労働法は、パートタイム労働者が公正な待遇を確保できるように、平成27年4月1日に改正されました。改正パートタイム労働法の改正のポイントは以下の通りです。
- パートタイム労働者の公正な待遇の確保
- パートタイム労働者の納得性を高めるための措置
- パートタイム労働法の実効性を高めるための規定の新設