スタッフが企業に求めるものやワークスタイルそのものが多様化するなかで、スタッフのオンとオフ、言うなれば「仕事とプライベートの両立」を考える企業も増えてきています。
今回取材させていただいたのは、「愛犬を同伴して出勤できる」「仕事中に愛犬の様子を見られる」というユニークな働き方を認めているUGペット様。ワンちゃん好きには喜ばれそうな環境ですが、こうした取り組みは実際に従業員満足やサービス向上などにどう影響しているのでしょうか。
UGペット様の本社オフィスにうかがい、「スタッフにとって働きやすい職場環境を整えることの価値」についてお話を聞いてきました。
高杉:
UGペット代表の吉武さん、どうぞよろしくお願いします。
吉武さん:
よろしくお願いいたします。
高杉:
早速ですが、はじめに貴社について大まかに教えていただけますか?
吉武さん:
UGペットは2004年、私が20歳のときに起業した会社です。
起業した当時、私は大学生でした。まだオンラインショッピングがそれほど普及していない時代でしたが、もともとペットが好きだったこと、そしてペットフードのような重いものは通信販売のニーズが高いだろうという考えから事業化し、今でも続いています。ペットフードの通販サイト運営だけでなく、現在はペットショップ経営コンサルティングやオリジナルブランドのペットフード製造・販売なども行っています。お陰様で、中目黒にはペットショップの路面店も構えられるようになりました。
高杉:
現在、スタッフの方はどれくらいいるのでしょうか?
吉武さん:
社員は10名います。本社は男性4名で女性が1名、中目黒の店舗はトリマーのスタッフが多く、男性が1名、女性が4名という構成です。私自身もプログラミングをやったりするのですが、大所帯ではないのでみんないろんなことをやってくれています。
高杉:
「オフィス(本社)内に託犬所がある」というのはとてもユニークですよね。託児所を備えている会社はあると思いますが、「託犬所」に目を付けたのはなぜでしょうか?
吉武さん:
もともとペット業界ということもあって、「ペットを飼いたい」というスタッフが多くいました。ただ、独身や共働き家庭のスタッフの場合、仕事をしていると家を空けがちになり、ワンちゃんをひとりで留守番させることになってしまいます。猫は多くの場合、一人暮らしや共働きでも飼えますが、犬は長時間のお留守番でストレスを感じてしまうケースが多く、「飼いたくても飼えない」というケースが少なくないんですよね。私も、飼っている犬を実家に預けて仕事に出かける――ということが何度かありましたが、そういった選択肢がない人もたくさんいます。
ちょうど7年くらい前になるでしょうか。事務所の移転を計画するタイミングがあり、そこでどういうオフィスにするかを考えていたときに「託犬所」のアイデアが出てきました。当時のスタッフの間では反対意見も特になかったので、「じゃあ作ろう」ということになったというのが経緯です。
高杉:
当時のスタッフは大丈夫でも、その後に入社された方は犬が苦手かもしれませんよね?
吉武さん:
そうですね。世の中には犬が得意でない人も実際にいますし、これから採用によって人を増やすとなったときのことを考える必要もあります。なので、すべてのスタッフがストレスなく働けるように、「託犬所」という仕切りのなかでワンちゃんに過ごしてもらうようにしています。業務時間中に元気な鳴き声が聞こえてきたりもしますが(笑)、集中できないなど業務に支障をきたすようなケースはありません。
高杉:
託犬所の利用状況はどんなものでしょうか?
吉武さん:
現在は、最大で3頭入ることがあります。同時に複数いるケースも結構ありますね。
高杉:
今日もワンちゃんが2匹いますね。
吉武さん:
はい。1匹は私が飼い主、もう1匹は別のスタッフのワンちゃんです。
高杉:
普段はどういった触れ合い方をしているのですか?
吉武さん:
休憩時間に触れ合ったり、散歩に連れ出したりしています。1日中託犬所内にいるわけではないので、犬にとってもストレス解消になっていると思います。飼い主が打ち合わせなどで外出しても社内にはたいてい誰かしらスタッフがいるので、「ひとりでお留守番」というケースはほとんどありません。
当社の場合、託犬所はガラス張りで執務スペースから見ることができます。デスクと託犬所が離れている会社は多いと思いますが、常に愛犬の様子を見られる点は好評です。空調も管理していますし、飼い主でなくても気が付いたスタッフがトイレ管理などをしているので、「犬好きのスタッフが全員で面倒を見ている」という感覚ですね。
高杉:
託犬所を設置してみて、どんなメリットがありましたか?
吉武さん:
個人的に嬉しかったのは、入社当時に犬を飼っていなかったスタッフに「飼いたい」という気持ちが芽生えたことです。これは、社内に託犬所がなければありえなかった話ですから。犬を飼っていない人でも、同僚のワンちゃんをかわいがって癒されることができます。また、ワンちゃんの話をきっかけにスタッフ同士の親睦が深まるケースもあります。人とワンちゃんはもちろん、人と人のコミュニケーションでもプラスの面がありますね。
あとは、ペットフードを食べさせたり取り扱っているペット用おもちゃで遊ばせてみたりと、製品開発の面でも役立っています。最近では国内外を含めて数百以上のドッグフードブランドがあり、犬の好みも多様化しているんです。なので、スタッフのワンちゃんに食べさせてみて好みの傾向を探ったり、体調面をスタッフにヒアリングしたりしてサービスの向上にもつなげています。スタッフやスタッフのワンちゃんならその場でフィードバックが得られるので、製品開発のスピードという点でもプラスですね。
高杉:
託犬所の利用に関してルールなどはありますか?
吉武さん:
他の犬に危害を加えないなど、最低限のしつけがなされていることですかね。中で吠え続けたり壁をガリガリと引っかいたりする行為は多少であれば問題ありませんが、オフィスなのであくまでスタッフの仕事に支障をきたさないレベルであることが求められます。とはいえ、ルールと言えるのはそれくらいです。「動物同士は相性の問題があるので管理が難しいのでは?」と思われるかもしれませんが、ワンちゃん同士でけんかになることも今のところほとんどありません。
あと、福利厚生としてフードを買う際の補助を支給したり、当社で取り扱っているフードを提供したりもしています。スタッフのニーズに合った制度があればこれからもっといろんな制度を取り入れたいですね。
高杉:
吉武さんが「会社経営」の観点から大事にしていることは何ですか?
吉武さん:
当社の場合、「世間で働き方改革が騒がれているからウチも何かやらなければ」という発想は特に持っていません。もともと残業をベースに仕事を組み立てるのはよくないと考える社風なので、残業は少ないほうだと思います。有給取得率も90%以上ですし、社員数が少ないというのはありますが、有休を取りにくいという雰囲気もありません。
クライアントワークなどタイトな納期がある仕事では難しいかもしれませんが、業務量をコントロールしやすいのでそうした働き方が可能になっているのかもしれません。
高杉:
それは素晴らしいですね!
吉武さん:
この業界では、「ペットが好きだから仕事を続けている」というスタッフが多くいます。せっかく好きな仕事に就いたスタッフが、不自由な働き方や過酷な環境を理由に離れてしまうのはとても寂しいですよね。そういったことにならないよう、経営・マネジメントでは気を付けています。定期的にスタッフ全員と1on1の面談を実施し、現場の声の把握に努めているのもその一環です。
高杉:
経営者が現場の声をじっくり聞けるというのは、小規模な会社ならではの強みと言えるかもしれませんね。
吉武さん:
そうですね。それともうひとつ意識しているのが、「仕事が増えて人手が足りないから人を増やそう」と安易に考えないことです。
高杉:
どういうことでしょうか? 仕事が増えたら人が必要になりますよね?
吉武さん:
それはそうなんですけどね(笑)。「採用では妥協しない」ということです。
たとえば、「給料が高いから」「有休が取りやすいから」といった理由だけで入社した人がいたとします。いくら彼(彼女)が「仕事ができる人」でも、マインドが大きく違うと、ちょっとした発言などで現在の社風や既存スタッフが心地よく感じる雰囲気は失われてしまうかもしれません。スキルや知識はもちろん大事ですが、それ以上に私たちの会社を理解してくれて、会社と合致した考え方を持っている人かどうかを採用では重視しています。
高杉:
スタッフにとって働きやすい職場環境を整えることには、どんな価値があると考えますか?
吉武さん:
私は、縁あって同じ会社に所属したスタッフにはできる限り長く働いてもらいたいと考えています。
「託犬所」のようにスタッフがいいと思う施策が多ければ、自然と同じマインドを持つ人が増えていくはず。逆にマインドにズレがある人が多いと、コミュニケーションコストもトラブルも増えるのでマネジメントが大変になり、「生産性低下」や「離職率増加」などが発生してしまうでしょう。管理を厳しくするという方向になると規則が増えて働きにくくなりますが、マインドが近ければコミュニケーションがしやすく、マネジメントも容易になります。ルールでガチガチに縛る必要もありません。
最近では、「きちっと仕事はするけどプライベートも大事にしたい」という人が増えていますし、「休日も仕事のことが頭から離れない」という人もいます。成長に差が出るケースが多いのは事実ですが、画一的に会社の都合を押し付けず、それぞれの人生方針にあった仕事の内容や割り振りを行い、その役割を全うしてもらえるように働き方や環境をつくってあげられたらと考えています。
高杉:
ありがとうございました。
今回はUGペット代表の吉武さんに、スタッフにとって働きやすい職場環境を整えることの価値についてお話をうかがいました。「愛犬同伴」の働き方は、スタッフのライフスタイルや円滑なコミュニケーションまで考えた施策だったんですね。採用では「スキル・知識以上にマネジメントの観点からマインドを重視する」というのも印象的でした。
「託犬所」はどの企業にも簡単に導入できるものではありませんが、現場には「こういう制度があると嬉しい」「オフィスにこういった仕組みをつくれないか」といった意外なニーズがあるかもしれません。経営者・人事担当者の方は、現場の声のなかから従業員満足やサービスの向上につながる情報がないか、探ってみてはいかがでしょうか?