インタビュー 2019/01/10

「面白」をとことん追求する会社がこだわっていたのは、オフィスデザインだけじゃなかった! Reporter : 高杉

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みなさんは「オフィスデザイン」と聞いてどんなイメージを思い浮かべますか?
一般的にオフィスには「業務上のムダを発生させない設計」「働く人全員に悪影響を与えないデザイン」が求められ、それゆえに「とことんシンプルな空間」「過不足のない空間」になっているケースが多いかと思います。

そんななか、ユニークな取り組みをすることで知られる企業「面白法人カヤック」がオフィスを新築したということで、話を聞きに行ってきました。

今回取材させていただいたのは、カヤックで広報を務める渡辺裕子さんです。
新しいオフィス(執務室がある「研究開発棟」とミーティングスペースがある「ぼくらの会議棟」
の2棟)に引っ越したのはなんと取材前日のこと。
社内がまだバタバタとしているなか、お時間を取ってくださいました。

高杉:
では、よろしくお願いします。

渡辺さん:
こちらこそよろしくお願いいたします。

重視したのは
「人が集まるメリットを感じられるオフィス」

高杉:
カヤックは2007年に本社を移転し、その直後に畳などの和のエッセンスが採り入れられた執務室や
「クリエイティブを誘発する」をテーマとした会議室がグッドデザイン賞(2008年度)をダブル受賞
して話題になりました。貴社ではオフィスデザインをどのようなものとしてとらえているのでしょうか?

渡辺さん:
今年は「働き方改革」がホットなテーマとなり、スタッフの生産性や業務効率を見直したり、
ムダを排除して合理化を徹底したりする企業もたくさんありました。
ですが、私たちは「一見ムダかもしれないもの」を大事にし、活かしていくほうがうまくいくのではないかと考えています。
「疲れたらゴロ寝」なんてできない会社のほうが多いと思いますが、以前にグッドデザイン賞をいただいたオフィスは畳を使って、仕事の合間にゴロ寝もできるようにしていました(笑)。

高杉:
新しいオフィスのコンセプトやこだわったポイントを教えてください。

渡辺さん:
「『人が集まること』のメリットを感じられるオフィス、居心地が良くまた来たくなるオフィスにしたい」と考え、建築家の方とコンセプトを考えました。
私たち面白法人カヤックは「何をするかより誰とするか」を大事にしており、新しいオフィスも人とのコミュニケーションを大事にできる環境になっていると思います。いつでもどこでもミーティングできるように、テーブルや椅子は持ち運びしやすいシンプルなものを使っています。

高杉:
実際、ミーティングスペースは非常に活気がありますね。

渡辺さん:
そうなんです。
弊社はスタッフの9割ほどがクリエイター属性という偏った組織なので、機能を追求したムダのないオフィスよりはオープンな環境でミーティングができるオフィスのほうが良いんじゃないかと思っています。
クリエイターは一人で作業をすることが多いですが、いつも一人だと組織に属している意義が薄れてしまいますしね。

高杉:
スタッフの評判はいかがですか?

渡辺さん:
オフィスデザインについてはおおむね好意的です。
「ちょっと変わったもの」が好きな人間が多いというのもあると思いますが、気に入ってくれたり愛着を持ってくれたりするスタッフが多いと思います。

「街全体を自分たちのオフィスに」という逆転の発想

高杉:
今回、社屋を新築した理由を教えていただけますか?

渡辺さん:
前提として、スタッフが増えて手狭になったという事情がありました。

高杉:
鎌倉に建てた理由は何ですか?

渡辺さん:
今回の社屋の移転はそもそも「場所ありき」でした。
弊社は長く鎌倉という場所に根差して活動しているのですが、鎌倉って、景観を守るために条例で大きな建物を作れないようになっているんですよね。
会社が少しずつ大きくなり、スタッフも増えてきたなかで、効率や利便性だけを考えるなら都心のオフィスビルに引っ越すべきかもしれませんが、弊社はそれをしませんでした。

というのも、弊社は地域の方や企業、行政と共生しながら取り組む資本主義「地域資本主義」を志しており、その点から鎌倉という街を選ぶことにとても重要な意味があったからです。
お話ししたように条例などによる制限もありますし、採用や移動といった事業推進の合理性だけを追求するなら渋谷や六本木のほうが良いのでしょう。
ですが、鎌倉にはそうしたデメリットを大きく上回るメリットがあると判断しました。

高杉:
条例による「大きなオフィスビルがない」「大きな社屋を建てられない」という状況は、
規模を大きくしたい会社にとってデメリットになるのでは?

渡辺さん:
確かにそうですね。ですが私たちは、その状況(マイナス)をプラスに変えられないか、逆手に取れないかと考えました。
そうして出てきたのが、「大きいオフィスがないなら鎌倉市内に小規模な拠点をいくつも持ち、いっそ街全体を自分たちのオフィスにしてしまおう」というコンセプトです。

地域の方が誰でも使えるようなオープンな環境にすれば企業や人の交流にもつながりますし、
地域との交わりが増えれば、鎌倉という場所で事業をする意味も一層増します。
一社でオフィスの中に閉じるのではなく、せっかくこうした場所に本社を置かせていただくのだから、いろいろな人や団体と協業させていただく方が面白い。
人とのつながり、自然の豊かさなど、鎌倉には資本となるものが多いんです。
こういった形で、鎌倉のオフィスから地域資本主義を発信していきたいと思っています。

高杉:
地域との共生というコンセプトを前提に、オフィスを設けたということですね。
ここに来るまでに道に迷ってしまったので、「地域に溶け込んでいる」という点では
完璧だと思います(笑)。

渡辺さん:
分かりにくくてすみません(笑)。
ここのオフィスでは大きな看板を設けていないんです。目印は、電柱に掲載した商業広告だけ。
周囲は住宅地ですし、私たちにとって会社は「街のなかの一部」という認識なので、なるべく溶け込むことを重視したいと考えています。

「人を大事に」から唯一無二の価値観づくりが始まる

高杉:
先ほど「働き方改革」に触れられましたが、カヤックには毎月サイコロを振って給料を決める
「サイコロ給」などのユニークな人事制度がありますよね。他にはどういった取り組みがありますか?

渡辺さん:
弊社では「ぜんいん人事部」という制度があり、文字通りスタッフ全員が人事部に所属しています。
正確には「全員が人事部を兼務している」と言ったほうが良いでしょうか。人事は全員が当事者意識を持ってやるもの、という意識を醸成するための制度です。
毎日人事の業務に対応するわけではなく、会社をより良くするために意見をしたり、仕組み化したりする形で貢献してもらうことを目指しています。

また採用活動においては、「ファストパス」というカードを使った仕組みがあります。
弊社の社員は「ファストパス」というカードを持っており、これをもらった求職者の方が一定期間内に弊社の採用に応募したら、その時点で1次面接突破となります。
つまりこのファストパスは、社員が「この人と一緒に働きたい」と心から思った証のようなものなのです。この制度も、「何をするかより誰とするか」を大事にした結果生まれたものだと言えます。

高杉:
その他にも、所属している社員だけでなく退職者もスタッフページで紹介していますよね。広報戦略で意識していることがあれば教えてください。

渡辺さん:
広報活動としてそこまで大きな仕掛けはないのですが、メディアに取り上げてもらう機会は多いですね。カヤックはもともと企画会社だったので、取材・紹介してもらえるような企画を意識しているという部分はあります。

退職者をスタッフページで紹介しているのは、できるだけここ鎌倉からクリエイターを輩出したいからです。第一線でカヤック出身のクリエイターが活躍する場面が多くなれば会社の認知も高まりますし、カヤックのネットワークで新しい価値が生まれる可能性も高まりますよね。

高杉:
4月には、カヤックがつくった社員食堂も話題になりました。

渡辺さん:
これも、「街全体を自分たちのオフィスにする」という考え方の一環です。
鎌倉市内で仕事をしている方だけが入れる食堂で、市役所を含め市内30企業くらいが会員となっています。メニューは地元の飲食店が週替わりで出店するというスタイル。いろんな企業の方が使ってくださっていて、店内で情報交換や協業の相談などをしている姿をよく見かけますね。

高杉:
働き方改革は「ワークライフをデザインする作業」と言い換えられるかもしれません。
今後、貴社では会社としてどういったことを実現していきたいですか?

渡辺さん:
私たちは平均的に能力が高い人材よりも、「たとえある能力が足りなくても一方である能力が突出している人材」が多い会社のほうが働いていて面白いと考えています。
今は、1人のクリエイターのたったひとつの商品が大ヒットしたら、それだけで会社全体が食べていけるような時代です。そういったスタッフが多いほうが、会社としての価値も高まるのではないでしょうか。

今はまだ「点」かもしれませんが、鎌倉というマップの上で点と点をつなげていくことによって「線」や「面」になり、鎌倉で働く人同士が出会うことによって、より地域に密着した生態系のようになればいいと思っています。
これからもムダを大事にしながら、会社として唯一無二の価値観を作っていきたいと考えています。

高杉:
ありがとうございました。

みなさんいかがでしたでしょうか?
オフィスデザインだけでなく、ユニークな人事制度も社員食堂の事業も、すべてが明確なコンセプトのもとで行われているアクションだったのですね。
「街全体を自分たちのオフィスにする」という発想は、活性化に取り組む多くの地域にとって参考になるかもしれません。

オフィスデザインリニューアルや社員満足度を高める施策・制度作りをお考えの方は、
基盤となるコンセプト(企業理念)からずれていないか確認しながら進めるのがポイントのようです。コンセプトという軸からブレなければ、さまざまな取り組みが「点」から「線」や「面」となり、
やがて会社の価値につながっていきそうですね。

株式会社カヤック
住所:
神奈川県鎌倉市御成町11-8
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